<甘味馬鹿一代>京の冷水は本当に砂糖水だけですねぇ
江戸なら団子が入ってるのに・・・
冷やし甘酒がよかったかも
飲みながらもそんなことを思い、町を歩く。
今は夏。
この季節の京は暑くてたまらない。
しかし甘味のこととなると総司には苦にならないのだが
「鍵善の葛切りはいつも食べてるので甘露竹にしますか?」
それとも、笹屋伊織のどら焼・亀屋陸奥の松風
他にも、半兵衛の笹まきふ・與市兵衛のおにぎり菓子
かま八老舗の茶釜最中・緑寿庵清水の金平糖
植村義次の州浜---
と次々出てくる店の名に清三郎はぐったりとしていた。
「先生、暑いのですからせめてさっぱりとしたものがいいです」
「ではやはり葛切りですかねぇ」
そう言うと総司は祇園に向かって歩き出す。
しかし清三郎はもうクタクタだった。
--このあいだ暑さで倒れたのに、甘味の為なら大丈夫とは--
さすがというかなんというか、と呆れる始末。
いくら先生と一緒にいたいからとはいえ疲れたなぁ・・・
そう思ったところで遠くから
「トコロテンや、テンや」
と言う声が聞こえてきた。
「沖田せんせーい!心太(ところてん)にしませんか?」
先を行く総司に声をかけるが
「甘くないじゃないですか」と返され、びっくりとした清三郎。
「先生、京へいらしてから一度も食べたことがないんですか?」
「だって酸っぱいんですもん」
「京や大坂の心太は江戸と違うんですよ」
と言って薦めてはみるがあまり気乗りがしない様子である。
「いいから一度食べてみてください」
「嫌ですよぉ」
そんな押し問答を続けても埒があかないと思い
清三郎はさっさと買うと、日陰がある川辺へと向かっていく。
「鍵善の葛切り~」
まだ言っているのかと思いつつ、心太を渡すと
仕方なしに口をつける総司。
「どうですか?」
「あ、甘い?なんで?」
「江戸では酢醤油が当たり前ですものね」
「これ、黒蜜ですよね?」
「私もこちらにきて初めて食べた時に驚きました♪」
食べてくれてよかった、と一息つく清三郎。
「さっぱりとして、美味しいですね♪」
「でも先生が知らないとは意外でした」
「神谷さんのお陰でまた一つ、いいことを知りました」
--甘味馬鹿と思っていたけど、知らないこともあるんですねーー
そんなことを思われているとは知らず
冷水では江戸ですが、心太は京ですね
と心で思う総司であった。
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