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marble-cafe"黒川まるる様の期間限定フリー小説を
頂いて参りました!
さすが、うちの駄文とは比べ物にならない...orz
私、このお宅で連載中の『flower』の続きが
気になって気になってしようがありません♪
『修羅と簪と』 京の夏はやはり暑く、だけど最近は慣れてきたように思えます。
巡察を終えた後、為坊と勇坊に教えてもらった神社の縁日へと、
神谷さんを連れて遊びに来ました。
夕方の今は人も多いため、はぐれないようにと手を繋ぎます。
露店が並び、神谷さんは目を輝かせながら一つ一つを覗いて……
手はすぐに離されてしまいました。
「わぁ~すごぉ~い!!」
竹細工の人形や、珍しいビードロの玉、涼しげな音を奏でる風鈴。
神谷さんは目に付いたものを手にとり、その度に私は
「じゃあ、これを…」
と、財布を取り出すのですが、神谷さんは遠慮して、
嫌そうな顔をする主人に謝ります。
日頃のご褒美に、と思うのですが、神谷さんは『高いから』と、
品物を見ているだけでした。
しかし、目の前で曲芸が始まると、空中で回転する少女達に
歓声を上げます。
「うわ!うわ!うわぁ~!!!」
拍手をしながら喜んでいる神谷さんは、本当にまだまだ子供で、
私は思わず笑ってしまいました。
ふと光るものが目に入り、そちらに顔を向けました。
そこには、彩り豊かな簪が。
ちらりと神谷さんを見れば、数人で行われている曲技に
見入っている様子。
私はその場を離れ、露店の前と立ちます。
店の主人が顔をあげ、微笑みかけてきました。
少しだけ顔が赤くなったのを感じながら、簪を見ていきます。
玉簪。花簪。びらびら簪。
質素な作りのものから、煌びやかなものまで、簪を一本ずつ
みていきます。
こうして、華やかな簪を見ていると、先日……女子の姿で現れた
神谷さんを思い出しました。
結局、あの見合いは破談となり、土方さんに茹でられたことは
思い出したくありませんが。
だけど、神谷さんの女子姿は、本当に綺麗で、可憐で。
……本来ならば、あの格好が、神谷さんの正装なのに。
刀など握らぬとも、良い夫に嫁げば…可愛がられ、子を産み、
心安らかな日々を送れるはずなのに。
神谷さんのその姿を思い浮かべる度に、体の、胸の奥が、鈍く痛みます。
……この痛みはきっと、彼女を修羅の道から、女子の道へと
戻さなかったことへの罪悪感。
そして……
「沖田先生」
振り向けば、神谷さんが私を見ていました。何故でしょう。
泣きそうな顔をしています。
「神谷さん?まだ演技は終わってなさそうですけど、
見なくてもいいんですか?」
「はい……あの、お姉さま方へのお土産ですか?」
「え、ああ、そうです」
聞かれて思わず、肯定しました。本当は違う……『あなたに』と言えば、
神谷さんはどんな…
『私は女子ではありません!武士です!!』
と、今まで通り怒るのでしょうか?……あんな綺麗な、女子姿を
見せたあとに?
考えている私の前で、神谷さんは安心したように、今度は嬉しそうに
笑います。
なぜそこで笑うのでしょう?
不思議に思いつつ、そんな神谷さんを見ると、先ほど感じた胸の痛みが
消えて無くなりました。
「ちょっと待っていてください」
神谷さんには見えないよう、三本の簪を買いました。主人も何もいわず、
手際よく包んでくれました。
二本の玉簪を江戸にいる姉達に。
もう一本の花簪は……いつか、月代のあるこの少女へ。
……渡せる日が来るかも分からないままに。
「お待たせいたしました。帰りましょうか」
「はい」
声をかければ、必ず応えてくれて。
微笑みかければ、微笑み返してくれる。
この瞬間、私は本当に温かい気持ちになるのです。
人斬りの私が、ここに来て、ここに居てよかったと、
愚かにも思ってしまう……
ざらり とした、慣れた感覚が背に走りました。
刀を持つ者として欠かせない、本能の一種。
これが仕事ですし、文句を言うつもりはありませんが……間の悪さには、
苛立ちが募ります。
「……神谷さん。すみませんが、先に屯所へ戻ってもらえますか?
土方さんに買って来いと言われていて、忘れたものが」
「え?それなら、私も一緒に戻ります。何を買われるんですか?」
「あはは。それが土方さんとの秘密のもので…」
「先生」
遮るよう声に顔を見れば……神谷さんは微笑んでいました。
その瞬間。
思い出した言葉は……昨年の池田屋以降付いた、神谷さんの別名。
『阿修羅』
「副長命令があったとしても、一緒にいきますからね」
口元だけ笑い、しかし、眼光は鋭く。
無邪気に露店を覗く童姿も
花のように美しい女子姿も
阿修羅の如く刀を握る姿も
全て……どの姿も全て、今、目の前にいる神谷さんで。
日々、刻々と成長していく神谷さんの姿を、こんなにも傍で
見ていられること。
それが、彼女を『阿修羅』にさせた、私の罪を遥かに超え、悦びに変える。
手放せない。手放さない。 これが、本当の理由。
「今の顔。土方さんにそっくりですね」
笑いながらそう云えば、案の定、神谷さんはムクれました。
「沖田先生!!」
怒声に笑いながら、歩いていた道を逸れ、横道に入ります。
神谷さんも普通に会話しながら、忙しなく足を動かして。
付いてくる足音は………五人といったところでしょうか?
分かりやすい殺気を放つ人たち……これなら、神谷さんも大丈夫かも
しれません。
無論、油断は禁物ですが。
「新撰組の沖田総司だな!!」
振り返れば、人相の悪い浪士たちが刀身を抜いて睨んでいます。
ため息交じりに、神谷さんに話しかけました。
「無理はしないでくださいね、神谷さん」
「…承知」
その声と同時に浪士たち奇声を上げながら走ってきます。
私と神谷さんは、刀を構え……修羅の道をまた、共に歩く。
弐千六年 残暑お見舞い申し上げます
marble-cafe 黒川まるる
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